嗅覚障害について
嗅覚とは、「におい」を感じる感覚のことです。
においとは空中を漂う揮発性化合物分子（におい分子）であり、嗅覚とは鼻腔後上方にある嗅粘膜で嗅神経細胞の受容体ににおい分子が結合することで電気的な興奮が起こり、嗅神経から脳の嗅球、一次嗅覚野、さらに高次嗅覚野へと伝達されることで感じられる化学感覚であることが分かっています。この嗅覚に何らかかの異常が生じた状態が嗅覚障害であり、嗅覚障害は量的障害と質的障害の2種類に分類されています。
- 量的嗅覚障害：
- においの感覚が減弱している（嗅覚低下）、全くにおいを感じない（嗅覚脱失）
- 質的嗅覚障害：
- 臭いの感じ方が異常な状態です。例えば、本来の臭いとは異なる臭いがする（異嗅症）、存在しない臭いを感じる（幻臭）、臭いを過剰に強く感じる（嗅覚過敏）などです。
多くの嗅覚障害の患者様は、量的異常を訴えることが多いです。
嗅覚障害の病態は3つに分類されます。
- 気導性嗅覚障害: 鼻腔や副鼻腔の病気により、においの分子が嗅粘膜に届かないことで発生します。アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎、急性・慢性鼻炎、鼻中隔弯曲症、稀に鼻腔腫瘍で鼻腔内の形態が変形することが原因となります。このタイプの嗅覚障害は、薬物療養や外科手術などで原因となっている疾患の治療を行い嗅粘膜への気流を回復させることで治療を行います。
- 嗅神経性嗅覚障害: においを受容し中枢へと伝える嗅神経がダメージを受けている状態です。ウイルス感染（感冒後嗅覚障害）、薬物（薬物性嗅覚障害）、頭部や顔面の外傷（外傷性嗅覚障害）で嗅神経が傷害されることが原因となります。
- 中枢性嗅覚障害: 嗅球よりさらに中枢の嗅覚路が障害を受けることで発生します。脳挫傷によるものが多いですが、脳腫瘍、神経変性疾患（アルツハイマー病、パーキンソン病など）も原因となります。
このように、嗅覚障害にはさまざまな原因があり、問診による症状の経過や嗅覚検査、画像検査などを行い、総合的に判断し、治療法を検討します。
味覚障害について
味覚とは嗅覚と同様に化学感覚であり、食物中の化学物質（味物質）が唾液に溶けて舌、口腔に存在する味蕾にある味細胞の受容体に結合し、神経伝達物質を介して味覚神経に活動電位が起こります。鼓索神経、舌咽神経、大錐体神経、迷走神経を経て脳幹へ至り、延髄、橋、中脳を経て大脳皮質の1次〜3次味覚野に伝達され情報が統合されています。
狭義の味覚は、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の五基本味から構成され、近年では、脂肪味と呼ばれる第六の基本味の存在も明らかになりました。食事の「おいしさ」を感じるには狭義の味覚以外にも風味（嗅覚）、聴覚、一般体性感覚（温痛覚、触覚）などの感覚や心身の状態なども関わっており、これらを含めて広義の味覚と表現されることもあります。味覚の伝達経路や味覚に関わる感覚の異常が生じた際に味覚の異常、味覚の変化を自覚します。嗅覚障害と同様に量的味覚障害、質的味覚障害に分類されます。
- 量的味覚障害：
- 食物の味が薄く感じる「味覚低下」、まったく味を感じない「味覚消失・脱失」
- 質的味覚障害：
- 食物の味が本来の味と異なって感じられる「異味症」、何を食べても不味い、嫌な味に感じられる「悪味症」、また刺激がなくとも常に苦味や塩味、酸味、渋味などの味を感じる「自発性異常味覚」、一部の味質が分からない「解離性味覚障害」、味を強く感じる「味覚過敏」などがあります。
量的味覚障害については味蕾の減少や味覚神経の伝達経路の傷害などが原因となりますが、質的味覚障害については原因や発生機序も不明な点が多く、また、治療の反応も悪いことが多いといわれています。
味覚障害の病態による分類
- 伝導障害：唾液の低下や咀嚼の障害など味物質が味細胞に到達できないことで生じます。
- 受容器障害：味細胞の機能障害を指し、微量元素（亜鉛、鉄など）欠乏、ビタミン欠乏、口腔粘膜障害（外傷、熱傷、舌炎、放射線照射）、薬物の影響などがあります。
- 味覚神経障害：鼓索神経、舌咽神経、大錐体神経など味覚神経の障害で起こります。外傷や外科手術の合併症、末梢神経疾患、糖尿病などが原因となります。
- 中枢神経障害
- 器質性障害：頭部外傷や脳腫瘍、変性疾患や炎症性疾患で味覚中枢に異常を来した場合に生じます。
- 機能性障害：味覚の認知に異常をきたした状態で、認知機能障害、加齢、精神疾患、心因的ストレスなどが原因となります。
このように、嗅覚障害にはさまざまな原因があり、問診による症状の経過や嗅覚検査、画像検査などを行い、総合的に判断し、治療法を検討します。
治療
味覚障害の治療は、その原因によって異なります。原因がほかの疾患にある場合は、その疾患の治療を行います。薬剤などが影響している場合は、その薬剤を、ほかの薬に変更するなどの検討をします。また亜鉛、鉄、ビタミンなどが欠乏している場合にはを薬剤にて補充します。唾液分泌が少ない場合は、唾液分泌を促進する薬を使用することがあります。精神疾患やストレスの影響が疑われる場合には、心療内科をご紹介することもあります。
味覚障害を予防するには、バランスの取れた食事を摂り、亜鉛、鉄、ビタミンなどの栄養素を充分に摂取することが大切です。